酒とミルクの境目は

自分がはじめて酒を意識して飲んだのは、小学校六年の確か正月。大人の手のひらにすっぽり収まるあの大きさの、ビール会社のロゴが安っぽく刻まれたコップで、ほんの三分の一。


にがいっ! もう一生飲まない!


そうやって顔をしかめ、周囲の大人たちを大いに笑わせたことを覚えている。そこから数年も経たないうちに、「苦い」が「うまい」に変わり、野菜はきゅうりとレタスしか食べられなかった偏食家が、酒の力を借りてもりもりと次々と克服していき、背は伸びなかったが、乳と尻の脂肪がむちむちと成長していき、ショートパンツやミニスカートが恥ずかしくなってしまった十代の娘。

酒が飲めるようになったら逆にミルクが飲めなくなった。毎日ガブガブと、コップ使うももどかしく紙パックに口つけて飲むほどだったのに、三口ぐらいで下腹がグルグル暴れ、ガスが溜まってしまう。両方を混ぜた酒で試したが、残念なことに相殺はしてくれない。やがてミルクを諦め、酒に没頭していった二十代の若気と気恥ずかしさ。


動画サイトで「ミルク32」という曲をものすごく久しぶりに聴き、そういえばあたしはミルク飲めないんだったな、と思い出した。それほど自分の生活から抜け落ちていたよ、みるく。


「32」は、主人公の彼女の年齢だろうか。はじめて聴いた頃は三十代なんてもう将来すぎて雲の中。根拠もなく、だれかと結婚して子供を産んで井戸端会議をしているんだろうなと漠然と思っていた。


ミルクを忘れてるうち彼女の年齢を飛び越えてしまった、あたしはそのどれも手に入れ損なった。楽しいときは忘れてしまい、辛いときだけしかそこに行かないのに、そのたびに黙って慰めてくれるカウンターの向こうの“みるく”。


君がこの町にいてくれたら。


「愛していると云っててくれ」より「ミルク32」