ブランドバッグか旅行かパソコンか、それとも歯？

クリーニングしてもらうために初診の歯医者へ朝いちばんに行くと「カウンセリングもしますか？」と優しげな美人助手に笑顔で訊かれ、笑顔を返しつつ軽い気持ちでお願いしてみたら、10分後には出してた笑顔が凍りついた。

昔治療したブリッジの歯が傾き、根元が内部で折れているという。しかもその負担でアゴの骨が溶けはじめているから、折れた歯を奥の親知らずとともに抜いて2本をインプラントにすべきと、地元で有名な美男子歯医者はニコリともせず真剣な目で言う。大きなマスクに隠された口元には鬼の牙があるんじゃないだろうか。

さらにイケメンはのたまう。「このまま放置しておくと確実に骨は溶け続けますし歯も痛くなりますよ。それに顔も口元も歪みます」
折れた歯を生かす治療法はないらしい。すでに失っている歯と折れた歯、2本をインプラントにするのが最良の治療法と説明される。

インプラント治療は保険がきかない自費治療。「1本だいたい30万ぐらいです」と言われた。かぶせるセラミック歯、インプラントするための処置、また溶けた骨の再生に必要な薬物治療にも保険はきかないというから、「だいたい」の揺れ幅は千円単位じゃすまないだろう。

見えない奥歯に60万。いやそれ以上。

急な展開に呆然としながら、とりあえず小さな虫歯だけ治療してもらった。表面麻酔のあとさらに麻酔注射を打ち、無痛の治療。口をすすごうと思って水を含んだら、麻酔した方の唇からダダーっとだらしなく漏れた。

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いずれはガタがくる自分の歯。今のうちに多少金をかけて綺麗にしておけば、もっと年を取った時、安心して笑顔を作れるだろう。歯を隠しながらでないと笑えないバアサンにはなりたくない。いい持ち物を持ち、きれいな服を着ていても歯がボロボロではそれらが台無しだ。質素な身づくろいでも、笑顔さえきれいであれば、どんなアクセサリーもかなわないだろう。

と、わかっちゃいるが、やっぱり出費は痛い。自覚症状のない状態でハイそうですか、んじゃ、とはとても言えぬ。たとえ相手がイケメンでも言えぬ。それにしても歯の治療とはなんと心をしおれされるものだろう。節約も忘れて、めったに食べないエクレアとコーラを衝動買いしてイッキ飲み食い。改めて見たら、コーラはカロリーゼロのものだった。

自暴自棄でも最後に残った乙女心。