グラジオラスって言葉を最後に発したのはいつのこと?

娘さんたちは、花の名前をどんどん意識的に言葉に出したほうがいい。小さい頃は今よりもっと花の名前を知っていたはずだ。学校に行けば球根を育て、花壇に水をやり、色とりどりで香りさわやかに咲きほこるそれらを、いっぱいの笑顔で見つめていた、あの頃の心のみずみずしさを取り戻すために。


けさ、自転車で独居老人のほったて小屋の横を通った。名もない雑草や育ちすぎたアロエなんかが、ペットボトルや100均の鉢にどんすか植わっていて鬱蒼としたたたずまい。そこに、なつかしいフォルムの花を見つけた時、郷愁の奥底にきちんとしまわれていたその名前がツルリと口から飛び出した。


あ、ヒヤシンスだ。


なんと懐かしい響き。花の名前を覚えていたことが嬉しくて、通り過ぎたあとも、グラジオラスとかパンジーとかキンセンカとか、小さい頃に覚えたきりの単語を声に出して言ってみた。その時の拙は、きっと園児のように屈託のない顔をしていて、眉間のタテジワもゆるんだだろう。ニヤついた年増には違いないんだけど、不機嫌な顔よりずっと幸福が寄ってきそうな気がする。たまにはゆるんだ子供顔になってもいいじゃん。ねぇ。