雨の日は、外にいて

間欠的な連休を、ほとんど一人で過ごした。その間ずっと憎らしいほど朗らかだった天気は、最終日になって急に泣き出したみたいだ。ほおら、ムリしてるからしわ寄せがきちゃったじゃん。


夏日がもったいなくて、何度も何度も洗濯した。シーツも洗い、掛け布団カバーも洗った。最後まで残った毛布をきょう洗うつもりでいたら、土砂降り。でもなんとなく計画を変えるのも癪な気分だったので、意地はって洗い、おなかに抱え込んでランドリーの乾燥機まで傘を差し、出かけた。


はじめてコインランドリーというものに行ったのは、23歳の時だった。日雇いのオッサンたちの簡易アパートも横に並んでいる古いマンションを、いくら音を出しても大丈夫だろうと契約し、引っ越してからそのあまりのガラの悪さに呆然としたことを覚えている。洗濯機を買うまでの数ヶ月、わたしはそれらオッサンたちの股ぐらや脇を包むパンツやシャツを洗う同じランドリーを使っていたのだった。


身ぐるみぜんぶ洗濯機にほうりこんでスースーと秘部をあおぎ、酒ひっかけながら洗い上がりを待つ浅黒い爺さんたちにジロジロ見られるのがイヤだったし、通行人にも丸見えだったので、できるだけランドリーから離れたかったんだけど、目を離すと色々と盗まれてしまいそうだったからガス乾燥機の熱でサウナ状態になった店内から出られず、失神寸前にもなったっけ。


あのスリリングな町で起きたこと。出会った人、別れた人。町を離れた時のこと。あれこれを、むせる熱気とごうんごうんと唸る音を聞いているうちに思い出し、雨模様に影響されてセンチメンタルになった。大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。昇華する洗剤の香りが心を落ち着かせてくれる。



あと2分。乾燥機の前に立つと、機械の裏には換気の小さい窓がついていた。隣家の大きな植木が見える。それがちょうど額縁に飾った風景画みたいにハマっていて、しばらくぼうっと見とれる。


ごうんごうん。ざわっざわっ。ぼつぼつぼつ。さぁぁぁぁぁ。ふゅううぅぅ。ごうんごうん。


額縁の中のみどりが揺れる。湿気と雨音と洗濯物の回る音でまわりがいっぱいになる。
一瞬、自分が今どこにいるのかわからなくなった。横浜か、東京か、過去か、現在か。


気が遠くなりかけた時、乾燥機の残り時間が「CD」に変わった。クール・ダウン。でもわたしはホカホカの状態で持ち帰るのが好きだ。ふかふかで気持ちいいから。


ほかほかの毛布をぬいぐるみのように抱きしめて帰る時は、23歳に戻った気分で、鼻歌まじり。