コトブキ町のサナギ食堂

コトブキ町。実家を出てあたしが独り立ちをはじめたあの横浜の町は、そろそろ香ばしい垢の臭いが吹く頃だ。今年はあまり暑くないから、路上や簡易ホテルで暮らす流浪の民たちも体力をむだに消耗せずに済んでいることだろう。

町のド真ん中にポッカリと空いた丸い広場は、そこの人々にとっての卓袱台だ。衣食住そして楽にかかわるすべてが、この広場に集まってくる。その卓袱台の隣に、台所のように温かく旨そうな匂いを漂わせる店がある。ボランティアとカンパで賄っているそこは「さなぎ食堂」という。

さなぎは最近、コンビニエンスの期限切れ弁当を引き取り、店の定食として安く提供する試みを始めたという。出たがり、派手好き、税金浪費と評判があまり芳しくない横浜市長が打ち出した「もったいない運動」の一環らしい。時間単位で躊躇なく捨てられるコンビニの残飯を裏口で待ちかまえて貰っていくのとどこが違うのかとは思うが、食堂を通して定食にすることで、利用者はバランスのとれた食事ができること、また訪れる流浪の民らの健康状態や生活状況をスタッフがこまめに把握し、問題があればケアできる、などの利点があるので、コトブキ町には有り難いシステムといえそうだ。

値段は300円、しかし無料で炊き出しをもらえるチケット「パン券」も使える。バックパッカーの外国人もよく訪れるというそこにひさびさに帰り、さなぎ食堂で定食を食べてみたい。「さなぎ食堂」って名前、ちょっと「かもめ食堂」に似ている。スピリットもちょっと似ている。