あなたの好きなハイボール

izumi_yu_ki2005-03-29

先週の土曜日、旧知の仕事仲間と一緒に中野ブロードウェイを散歩した。相変わらずのユルーい雰囲気に心なごむ。どうってことない普通の居酒屋の、どーってことないしそ焼酎のお湯割りがやけにおいしく感じられる。思わず何度もおかわりした。ひさびさの酔い。

そうだ、キャバレー街の裏側に、昔なつかしい感じのバーがあったはずだ、と、友人を引っ張り回しながら数十分も同じ往来をいきつ戻りつしながら探し、やっと見つけた「ブリック」。古くさいドアをぎぎぃと開けると、黒光りする古くさいカウンターが奥までスッとのびている。奥に座って、おもむろに「ハイボール」と注文すると「トリハイでいいですか?」と老年に近いバーテンダーがにっこり。そうだった。ここはトリスバーだったんだ。トリスを飲んでハワイに行こう、の、あれあれ、あれだ。「はい、トリハイを。それと・・・」

目当てのものは、ハイボールのほかにもう一つあった。それがメニューを探しても、壁の張り紙を探しても見つからない。あきらめてポテトサラダと野菜スティックなどほおばりながら、トリハイおかわり。3杯目に突入したところで、バーテンダーのうしろに、ついに発見。

「あの、塩豆ありますか?」バーテンダーはちょっと驚いた顔をして「ええ、ありますけど最近あんまり人気がないんです。召し上がりますか?」「はい、塩豆、ください」

かつての若人は、安いハイボールと安い塩豆でうさを晴らしながら大人の男になっていったという。山口瞳のエッセイだったか、池波正太郎だったか。それにずっとあこがれていたのだ。目の前には、サイダーフォンで一気に作られ、ほんのひとかけ、レモンの切れ端が入ったシュワシュワのトリハイと、思いがけず山盛りにされた、ぼりぼりの塩豆。嬉しくて嬉しくて、トリハイさらにお代わり。トリハイ1杯200円。塩豆、100円。よれよれになりながら店を出て、自宅に帰らず大事なひとの部屋にまっすぐ向かった。携帯オン。

「あのね、あたしと同い年のバーに行って来たんだよ。店がすごくやさしかったから、あたしまで優しい気持ちになったよ。ねえ、今夜は、、、」