ぷるるん・つるるん・ところてん
午後1時の炎天下もたもたとアスファルト歩いてたた豆腐屋の店先に「トコロテンあります」の貼り紙を見つけてそういえば昔はタバコ屋の角を入った八百屋のタライの中に大きいままのトコロテンがふわんふわんと浮いていて100円玉にぎりしめてチョウダイとおつかいするとねじりはちまきのオッチャンが木箱にそれをチュルリと入れてポリ袋めがけニュイーンと押し出してくれたっけなと懐かしさが胸にひろがった。
ドラフトワン呑まずにいられない。週末暑すぎ。ビールは呑んだそばから汗になって滴りおちた。
豆腐屋でみつけた貼り紙につられた。すいません、トコロテンひとつ、くださーい。ええ、ひとつ。
店の奥からのたのたとおばあちゃんが背中を丸めながら寄ってきて、傍らのポリバケツから、あの懐かしいトコロテン棒をつかみだした。木箱に入れチュルリと押し出す感じ。あー、これだこれだ。これだった。夏になるとよく買い出しに行かされたっけなあ。
くるくるとねじり結び、手渡されたポリ袋のにおいをそっとかいでみた。パックのものには必ず酢水が入っていてほのかにツーンとするものだが、これには、においがない。水に浸けているもんだったんだね。そこまでは覚えてなかった。
家に帰るなりすぐ水を切り、ガラスの器を戸棚の奥から引っぱり出して入れる。かなりの量だ。個別パックの2人前は軽くあるだろう。冷蔵庫に少し残っていた黒酢と、豆腐屋でもらったちっちゃなタレをかけて口にはこぶ。ちゅるるるん。
トコロテンの角がしっかりしている。固くはないが、食べ応えがある。突きたてってこんなおいしかったんだ。しかもお腹にたまる。いいやこれ昼御飯がわりにしちゃおう。ずるずる、ごくごく。
酢まですっかり飲み干したら、腹の中がカアッとして、それからスウッと涼しくなった。ベランダには、2回転してたっぷり洗った洗濯物がパタパタと揺れている。さっき干したのにもうほとんど乾いている。
夏がフェイントしてきたみたいだ。どっちかといえば苦手な夏だが、今年は風鈴でも買って、暑さを楽しむことにするか。