コンクリート詰めの空気とクウネル

izumi_yu_ki2004-03-22

3月も下旬になって最低気温は摂氏5度で午後から雪が降るという予報に少しおどろきつつ今日も卵を茹で作りおきのキンピラゴボウとカイワレのおひたしと共にグワシと弁当に盛り込んで出勤する途中に空を見上げたらグレーのオブラートに包まれているようにすべてが煤けて見えた。

熱い紅茶飲まずにいられない。ちなみに別れの朝に二人で飲むのは冷めた紅茶とペドロ&カプリシャス的には決まっているそうだよ。

今週はずっとぐずつく模様。昨日はあんなに晴れていたのに。太陽がチリチリ照りつけ、5分歩けば汗ばむぐらいだった。昼ごはんを決めていなかったけど、路面電車の線路ぞいにあるエスニックレストラン「サイゴン」でカレーを食べることにした。暑い時には辛いモンです。お供はシンガポールのビール。暑い国の食べ物には暑い国で造った酒が合う。「タイガー」はさっぱりしていて飲みやすかった。日本のさっぱり系ビールに似ているけど、ちょっと違う。日本のって昔のドライビールみたいな味がするんだよね。喉に金属っぽい味が残る。「美味しんぼ」では『スプーンの丸みを舌に押し付けた時の味がする』って表現してた。そうそう、それそれ。だからあんまり、なあ。

私はほうれん草とポテトのカレー。連れはサイゴン特製カレー。人のモノはたいそう美味しそうに見える。つい“ちょっと分けて”と手を伸ばしてしまったが、連れはシェアして食べるのがあまり好きではないようだ。義弟も確か、そんなことを言っていた。ふだんノホホーンとしているのに、ラーメンとケーキだけは絶対に分けてやらん、一人で全部食べたいと言い切っていた。いや、すまん。意地汚かったか。

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「クウネル」という雑誌を買った。オーセンティックな奥様が定期購読している「暮しの手帖」から批評精神を排除し、野暮ったさを排除したような隔月発行の雑誌だ。オシャレな生活に憧れる、少し大きめの“乙女”たちが飛びつきそうな内容。掲載されている写真にはギラギラした原色が見当たらず、一様に柔かく紗をかけたような色調。生命の力強さは排除され、むしろ育ちきった成熟の風景が並ぶ。

――年寄り臭い色。

最近は若い人でも、がむしゃらにバリバリ前進するより、のんびりとマイペースで楽しむ方が好まれる傾向があるように思える。二十歳そこそこで、もう枯れている印象だ。いいのか悪いのか、私にはよくわからない。が、とりあえず私は、自分は無駄に動きすぎで、あせりすぎのような気がするから、落ち着いたものに憧れる。スモーキーな風景とか、ゆっくり作って食べ、のんびり暮らすスローライフとか。

朝の街は、歩道橋もアパートも花屋のキンセンカも、乳化しない粉墨をまぶされたように沈んでいた。クウネルの紗とはまるで違う、どす黒い灰色。