大事なひとつだけの恋が目の前で枯れる。

男は、一緒に育てたモンなんかがあるから離れられないんだと怒鳴り鉢を倒し中身を零した。女は、まだ生きているんだよ酷いよと泣き土を買ってきて盛り水をやり毎日声をかけた。

ほとんど様子は変わらないなりにも少しずつ元気になっていったようにみえた3年目のバジル。1年で終わってしまうはずのハーブは、まだ二人の部屋でひょろひょろと生きていた。さすがにもう駄目かしら、と思いながらも、ひなたに置き、水を時々やり、見守っていた。

一人で過ごす夜。

夏の草なんだから冬の寒さはきついだろうなと、ある夜、女はオイルヒーターのそばに椅子を置き、鉢を置いた。無意識だった。ふとしたはずみで袖が触れ、鉢が椅子から転がり落ちた。土はまたたくさん零れ、中身は前よりもっと土にまみれた。

ごめんね、ごめんね、わたしが悪いんだ、ごめんね、って言いながら土を片付け、まだ残っている草を立て、底を見てみると、泥水が少し溜まっていた。心配のあまり、水をやりすぎてはかえって根が腐ってしまう。もう腐ってしまったかもしれない。気をつけていたつもりなのに。手をかけすぎてしまった。構いすぎてしまった。

ごめんね、ごめんね、大事にしたはずなのに、もう駄目かもしれないね。ごめんね、あたしが悪いんだよ、ごめんね。

そう言いながら女は、風呂からあがりたての無様な全裸姿のまま床を拭き、ハーブの葉をぬぐい、東南側の窓辺に置いた。せめて明日は一番のあたたかい朝日を浴びて、1日でも幸せな朝を迎えて、それでも駄目かもしれないけど、安らかにいのちを終えてほしいと思って。

ごめんねを言い続けながらパンツを穿き、髪を乾かしていても、かっこわるい涙が零れる。こんなに悲しいのになぜか体重を計ってしまった。すると女は、また1キロ痩せていた。

ディヴァイン・コメディ。あなたたちは嗤うがいい。不格好な女のことを。