「女はみなかわいげな獣。」

こんなキャッチのついたマンガを書店で見つけた。「このマンガがすごい!2011・オンナ編」で1位を獲得した作品らしい。ほんのちょっとだけクロスした6篇のショートストーリー。それぞれの主人公たちが内包している言葉に、どきりとする。

「顔も心もあたしよりよっぽど醜い人なんて山ほどいるのに/あたしだけ選ばれない/世界中の男に選ばれたいのに/選ぶ準備はいつだってできているのに」(CASE.1)

「年をとるのが怖い/未来が怖い」(CASE.2)

「あたしたちの決まりはとにかくフツーってこと/あたしが/あたしたちがフツーじゃなきゃって思うのはたぶん/フツーじゃない人にはなれないから/特別な持ち物を持ってないから/じゃああたしは一体いつになったら終われるんだろう」(CASE.3)

「娘の全ての幸福も災厄も母親に由来する」(CASE.4)


CASE.5では“育ちが悪い”というコンプレックスを持っている“どこにでもいそうな、ゆるふわ系”OLが“育ちのいいサッパリした性格の”エリート女子を傷つけ、自爆してしまう。魚喃キリコ氏「ストロベリーショートケイクス」の登場人物・ちひろによく似ている感じ。

「小さい頃から勉強はきらいで/将来の夢はずっとおよめさんでした/仕事が楽しいとか思ったことない/趣味もないし/女の子はきらい/それの何が悪いんですか/好きな人とずっと一緒にいたいだけ/そういう人に出会いたいだけ/そんな人に愛される女のコになりたいだけです」
「あたしが男のコから愛されるためにどれだけがんばってるかわかるかな/わかんないよね/だってあたしは何もないもん/愛してもらわなきゃ何もないもん」(CASE.5)


ゆるふわな彼女が「本当は仲良くなりたいし、憧れている同性の人」に悪意を募らせていく辺り、気の毒ではあるが自己憐憫に酔いしれて努力の方向が斜め35度下になってる点がちょっと共感できない。自分の欠点を知ってるのなら食事作法くらいは身に付けられると思うし、恨むパワーを昇華することは考えないのかなぁって。


「あたしのこと見下して楽しいんだね!…やだぁいい人ぶらないでよアハハ、うぬぼれてるよね、だって何でもできるし、元々全部持ってるもん」「一度でも優越感持ったことないって本当に言えるのかな!」


あまりにも小さい世界だと、やっぱ思うよね。でもさ、小さくきゅっとまとめたオンナの中から、すべての世界は始まっている。


CASE.6は唯一、男性が主人公。
「女同士のドロドロとか恐ろしすぎるし/ひとの彼氏を値ぶみしたりして/女の人って醜いよなあ/女は醜くて/男は愚かだ」
で、互いの“そこ”を愛さずにいられるわけがないのだ、と締めくくっている。

確かに男性的な視点っぽくはある。が、んー、オトコはオンナを「怖い」と思うだけで、わかりあえない部分を愛するって結論まで進まないんじゃないかと。愛することに理由をつけたがる、よほど自意識過剰な小説家モドキでない限り。


私が個人的に刺さったのはCASE.3だった。フツーから逸脱した自分の部分に悩む隣の女子高生から「普通の人じゃないのって怖くないですか?」と問われる初老の独身女性写真家が彼女にかけた言葉に共感する。

機会があればぜひ読んでみて下さい。

HER(Feelコミックス)

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