補足X:トラウマ

私は、阪神大震災をテレビで知りました。オウム真理教の一連の暴走は、リアルタイムで体験しました。そんな中、呑気にも私は、将来の伴侶と決めた人と、式場で指輪を交わしました。とても、幸せな一日でした。目覚めた時の、あの幸福感は、もう二度と味わえないかもしれません。外へ出ると、あまり通行客がいません。横浜だから、平日だって観光客はたくさんいるはず。なのに、どうして。

3月20日は、地下鉄サリン事件が起きた日でした。

あわてて家へ戻ると、いつも通勤に使っていたあの電車が。あの階段が。うすぼんやりとした擦りガラスのような映像の中で、だらりとしたものが運ばれています。三角柱のように動かない、人間らしき方が見えます。大の字になっている人も見えます。

咄嗟に、同じ駅を使って通勤をしていたという、坂本弁護士のことを思い出しました。また、松本の事件のことも思い出しました。自分は何も傷ついていない、何も被害を受けていない。それなのに、じわじわと、闇の手が胸の中に入り込んできては、私の心を揉みしだくのです。

その後丸1年、私は働くことができませんでした。その間、近親者が数名、亡くなりました。そして、助け合い、護り合っていこうと誓った夫が、本当に守りたかったのは、自分の培った芸術、そして、彼の肉親でした。私では、なかった。間もなく、私は家を出ました。

わたしは実害を何も受けていない。ただのラッキーな幸せ者です。だけど、なんの巡りあわせか、傍かみればばかばかしいと思うほどくだらない、ガラクタ石を抱えてしまったのです。

毎年、3月20日には心が荒れます。今年は地震で、帰宅難民という経験もしました。いつもの年より、心がふくれあがっています。変なことを書いてごめんなさい。こんな寒い雨なんか降らないで、桜が咲く頃に、早く。若葉が芽吹く頃に、早く。