ビンロウジの実の丸み、胡弓の音

20ページのWebサイトを構築する仕事を先月と今月、依頼された。
web上で何日もかけて情報を検索し、さも知っているフリをしてひとつの商品を訴求する。
ウソではないが本当でもない言葉吐き。締切はつらいが仕事自体は意外と楽しい。
このままコンスタントに毎月来てくれると家計も大助かりなのだが。

今月訴求すべき商品、というかサービスは内装の専門知識のようなものが必要で資料に乏しく、なかなか原稿が進まない。
書きながらさらに資料を探し、また書いては信憑性を確かめる。
進捗は一進一退。切迫しているのに、なんだか気が乗らない。


そんな時、ふと思い立ってある本を探してみた。
中国の童話集だったのだが、書籍名もあいまい、版元もわからない。
なんせ小さい頃住んでいた家の本棚に並んでいた子供小説だから探しようがない。
もう何年も、何十年も、探すことをあきらめていた。


以前も似たようなことがあった。
その時にはタイトルを覚えていたため(「合成脳の反乱」という旧題だった)、
幸い読者の方から情報を得ることができ、国会図書館で無事閲覧することができた。
しかし今回はさすがに無理だろうと思っていた。

でもさっき、都立図書館サイトで「中国 童話」と検索をかけたら、
覚えのあるタイトルが目に飛び込んできた。


「みかんぢょうちん」


あっ!!!!!


そう、確かそんなタイトルだった。
詳細をみると、同時収録のタイトルにもちゃんと覚えがある。
これだこれだこれこれこれこれこれ!!!!!


だが残念ながら貸出はしてもらえないようだった。
保管されている図書館は少し遠いため、すぐに閲覧することはできない。
武蔵野市の図書館にはなかった。仕方ない。見つかっただけよしとするか・・・。


しかしタイトルがわかったのだから最後にと、世田谷区の図書館に検索をかけたら、


あった!あった!!!


すかさず予約をし、いまかなりコーフン状態にある。


30年前の愛読書がまた一冊掘り出された。記憶の補完ができるなんて、こんな嬉しいことはない。
当時、周囲で中国童話なぞ読んでる子は誰もいなかった。でも、拙はこの本が好きだった。



この本ではじめて中国の弦楽器「胡弓」を知った。
確か文中では1本しか弦のない「一胡」だったと記憶している。

また「ビンロウジ」という木の実の描写が出てくるのだが、
当時、手の平に受けた時のぽっこりと丸くあたたかみのある感触を想像しながら
「ああ、触ってみたい・・・」と、
未知なる植物の実に思いを馳せていたような覚えがある。


自覚がなかったが、どうも拙は相当ヘンな小学生だったようだ。

記憶の確認が、今から楽しみで仕方ない。