アーカイブWOY「オブラート状」

生きるために必要な透明フィルム。

それは目立たない,薬屋の片隅にある。
祖母の姫鏡台に必ず入っていた。
持病の胃痛がひどくなるたびに,引き出しを開けて取り出す。
指に唾をつけて1枚めくる。

粉薬を上にのせ,几帳面にたたんでいく。ふたつ,よっつ,やっつ。
指先でつまみ,眉間に皺をよせて,素早くぬるま湯で飲み下す。
ああ苦しい。でもこれがないと飲めないのよ。
薬がゆるやかに体の中で溶解し,目当てのものを殺す。

 

薬がゆるやかに体の中で溶解し,目当てのものを殺す。
ああ苦しい。でもこれがないと出せないのよ。
指先でつまみ,眉間に皺をよせて,素早くひだの奥へ送り込む。
一匙の不満をのせ,几帳面にたたんでいく。ふたつ,よっつ,やっつ。

指をよく乾かして1枚ひっぱる。
あのことを始めるたびに,引き出しを開けて取り出す。
あたしのドレッサーに必ず入っていた。
それは目立たない,薬屋の片隅にある。

殺すために必要な透明フィルム。