オノ・ナツメのシネマチックな世界に耽る

自分の中の「頑張りスイッチ」は、どうも接触が著しく悪いらしい。
一度はいれば座りっぱなしでガンガン仕事もはかどるが、
一度休憩を挟むと途端にダメんなっちゃう。
仕方ないね、これが拙なのだから。

レダレな気持ちをさらに萎えさせてしまうような漫画を引っ張り出し、昼時に読む。
オノ・ナツメの「not simple」。

not simple (IKKIコミックス)

not simple (IKKIコミックス)



失恋した時、とことん泣いて落ち込む用に中島みゆきを聴くのと同じ感覚で、この悲しく美しい長編を手に取ったのだ。

音楽でいえば「前サビ」、クライマックスが冒頭にいきなりくる。前サビだからこそ、そのあとから語られる、ゆるやかでかなしい物語の始終を、安心して読み込むことができるようだ。

主人公のイアンの「救いようのないぐらい不幸な人間」の人生に、まず衝撃を受けてしまう。が、何度も読み返すと、夕闇にわずかな光を放つ六等星ぐらいのエピソードのほうが心に残ってくる。

人妻と過ごした海岸で一生に一度だけのランデヴー。陸上試合で憧れの選手の記録を抜いた喜び。そして、姉がよくつくってくれたという好物の「ツナ・モルネー」。

わが人生のほとんどが暗闇だとしても、
わずかに光る六等星をいくつか見つけることができたなら、
それだけで、
生きていたことはまんざらでもないんだよ、イアン。