無風の構内で無心に酒を飲む

JR新宿駅東口改札を抜け、いつもひどい人混みを掻き分け地下鉄丸の内線の階段を下りる手前、ペラペラレーヨンのブラウスやLサイズスカートを1000円均一で売るような出店と立ち食い蕎麦屋に挟まれたところに「BERG」はひっそりとある。キャッシュ&デリバリーで、内部はいかにも駅構内のカフェ風な調度だが、L字変形型店内の奥に沿ってある立ち飲みカウンターの長さが、少し異彩を放っている。

代表的メニューはコーヒー、カレー、デリプレート。だが昼過ぎからは大部分の客がビアグラスを傾け、すでにブリティッシュ・パブな空間と化している。生エビスは一杯315円、黒もある。ワインも日本酒も充実。一品つまみも豊富。

拙も新宿に用事があるたび、かなりの頻度でここを訪れる。たいていいつもエビスの白と黒を混ぜたハーフ&ハーフとブルーチーズドッグをオーダー。キャッシャーの見える場所カウンターにスペースを探し、グラスで確保。あつあつのパンをほおばる。壁のほうを向いていれば、乙女といえども溶けたチーズが唇や前歯に貼り付くのもお構いなし。そして間髪入れずビール。至福。

とにかくここは、構われないところがいい。客どうしが自由に行き来して交流を図ることもあるが、どちらかといえば個々に短時間のリラックスを楽しむ場所と心得た人が多いように思える。この種の酒場ではけっこう奇跡的なユル感だ。スタッフの方々はいつもニコニコしていて好感が持てるし、つねにきびきびと動いている。あいたグラスは片付けられるし、テーブルがぬれていればすぐ拭ってくれる。が、目の前のクリンリネスにとらわれるあまり、客の会話を中断させるような無粋なことは、今まで一度もなかったように思う。

謙虚なマイナス・ワン。客がいてゼロとなり、にぎやかだが心静かな時を味わうことができる店だ。


その店の経営者が本を著した。「活字中毒R。」じっぽ氏がその本について触れているのを読み、なるほど、あのゼロな雰囲気はこういうところにあるのか、と感じ入った。

http://www.enpitu.ne.jp/usr6/60769/diary.html

新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks)

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ベルクHP
http://www.berg.jp/index.htm

存続の危機にあることはかなり前から知っていた。ぜひとも回避してもらいたいと思っている。安くてうまいよ、ここのビールとソーセージは。