AM8:20、井の頭線ランデヴー


猛暑日連発の8月が過ぎてなお湿気て暑い武蔵野の始発駅。朝の渋谷行き・上り列車は左側に陽が差し込むことが多く、乗り込むデイリーな乗客は右側に集中する。おかげできしきしと傾き、発射前から揺れる車両。すべりこみ座ればまた憂鬱。見知らぬ隣人の半袖からはみだした腕に剥き出しの己の腕が触れる。深く座りなおし、できるだけエリアを確保。そんな疎ましい行動を月20回あまり繰り返し、やっとアフターワークのエールビール1杯を得ることができるのだ。



我慢ばかり。体重は増える一方なのに、やせ我慢ばかり。



で、発狂ギリギリで突然秋になる。それがニッポン。この気候がわたしたちを「実直さは随一」と言わしめるのだ。今朝の気温は24度。真昼でも28度の予想。当たってくれよ天気予報、と慌しくシャワーを浴びたあと、手弁当に保冷剤を入れずに鞄へ詰め込み、買いたてのSPF低いニベアを顔と腕に擦り込む。



乙女、出発。



井の頭線ホームのアスファルトは昨日と変わらずギラギラと朝日を反射している。ハレーションの中、涼しいせいか少し気分に余裕をもって渋谷側へ進む。

壁ぎわのベンチはきれいに磨かれて清潔そう。だがよく見るとその下に小さな褐色のビンが転がっていた。口から蛍光色の黄色い汁が相当量流れ出ていて、フチはゼリーみたいに小さく盛り上がっている。



数十分前、その人はキヲスクで栄養ドリンクを買った。しかしろくに飲まないうちにうっかり手から滑り落としてしまった。スルリと落ちるガラス瓶。こぼれ散るヴィタミン。だがそれを嘆く暇もなく電車は到着。確実に涼しい場所に座れるように、少しでも休めるように、ねばつく腰をあげて、そのひとは立ち上がり、都心に向けて出かけていったのだろう。

たぶん善良で、きっと働き者で、きょうの運が少しよくない疲れたあなたに、心の中でそっとHUG。