誰もがきっとアリバイのない季節を、産声だけを吐きながら歩く

彼女と話し込む直前にいた店で、年上の顔見知りがボヤく。「もうじき春になるんじゃん。時間の経つのが早いよねぇ」、そしていかにも嘆かわしいという表情で「20代より30代のが早かった。今オレ46だけど、きっと50代なんかもっともっと早いんだろうなあってさあ」


「そうだねぇ、朝だと思ったらもういま夜だもんねえ」とやや間抜けな相槌をうちながら、なんでそういうことになっちゃうんだろうと、その理由を考えた。そして酔っ払い脳はひとつの仮説をひねり出す。


もしかしてヒトはみんな本能的に年をとるのがひたすら怖くて仕方ないんじゃないだろうか。怖いから、死の刻までの着々と衰える日々を、できるだけ短く走り抜けたい、残された時間が少なくなればなるほど、どんどんBPMが速まっていくのじゃないかと。

たしかに、おっそろしいねえ。ジワジワとシワシワになりながらただ老いる独居女・・・やだなもういっそ・・・


や、酔っ払いはロクな理論を生み出さぬ。げんに翌日行った武蔵野市の健康診断で、あなた昼間のパソコン仕事ではメガネいらないぐらい視力ありますよ、だって。なんか若返ってるみたいだし。


病院の自動ドア出たら、検査のために薬で開いた瞳孔に生命力あふれた陽射しがガンガン入ってきてひどくまぶしい。真下を向いて光を避けながらiPodのイヤホン押し込めば、中身は相変わらずキリンジだらけ。

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