すべてを覆いかくす雲の上で 静けさに包まれていたい

チャチな造りの雑居ビルで、たった数人しかいないスタッフのなかにある恋の確率。今にも崩れ落ちそうなヒビ割れた天井のもと、クライアントがひとつ離れればたちまち離散状態なこの危うい仲間たちのなかにあるひとつの温かみ。


ここが狭ければ狭いほど、ここがチャチければチャチいほど、育まれる誤解に近いその気持ちは、それでも多分本物なのだ。本物の仕事を懸命につくりあげるのと同じ気持ちで、真剣に育んでいくんだ。


そ。ふたりが向き合ってさえいれば、問題なんかひとつもありゃしない。GOGO非常階段の見えない階で激しく求め合えばいいんじゃん。


10年前だったら。去年だったら。いや、おとといだったら。
ぼくだって、多分そうしただろう。


でも、もう今のぼくの心ん中には、たくさんの色を乱暴に塗り重ねたヘタクソな塗り絵が広がっているばかりだ。GOGOでぶざまな結果を受け止め、それでも立っていられるほどツラの皮も心臓の包皮も厚くない。隠そう、隠れよう。そうして春の前にまず、冬をやり過ごすのだ。クレバーなツラをして。時にはオヤジギャグできみを笑かしながら。