小便臭い街に咲いた、一輪の大人な恋の花

なじみの店に行くと、「この前いつ来たっけ?」と、店主&常連オジサンたちに早速愛あるイジメを受けた。ニコニコとかわしながらふと隅っこの気配に気づくと、そこには肌がきれいで清楚なメガネ美人がちょこんと座っていた。

店主は彼女ととくに会話をするわけではなく、かといって放置もせず、折を見計らってラーメンを作ってあげたりしていた。

「来週オレ引越しするんだよ梅が丘に」「えー、こないだ引っ越したばっかりじゃなかったっけ?」「もう2年前だよ。あ、じゃあ車のほう頼んじゃっていいかな」と、常連のひとりに引越し手伝いをお願いしているようだ。

「2トントラックでいい?」「いやそんなんイラン、ハイエースで十分や」
そうだよな、だって風呂なし家に家具も置かずに住んでるんだもんね確か。

「手伝いはいっぱい必要かな」「いやそんなイランけど手ぇはあっただけエエな」

おかしい。そんなに手はいらないはずなのに。メガネ美人、微笑しながら黙ってラーメンをすする。・・・どうやら今回の引越しに関係しているナ、とやっと気づいた。

46歳。大阪で生まれた男。
小説家志望。現在カウンタ飲み屋の雇われ店長。下北沢の区画整理が始まればおそらく失職。資格とくになし。将来展望、いきあたりばったり。こんな彼にヨメさんが来る。

どうやら彼女とは昨年の秋、下北再開発の反対活動デモで知り合ったらしい。不惑の恋なんて、若者の町・下北沢にゃ拾えないと思ってたよ。あるじゃんね。ちょっと希望を見たよ。

そのあとホロ酔いで夜中の下北沢を大きく一周してみた。しかし、今のところ、拙を吸い込んでくれるような止まり木は見当たらず。道は遠い。とりあえず酒への無駄な散財を控えるために500円玉を貯める。

小さなことから、こつこつと。