正月の実家の匂い

正月3日、母ひとりが住む実家に一歩足を踏み入れた時、そこではじめて嗅ぐやるせない匂いに足が一瞬、止まった。
ツーンとした匂い。おばあちゃんの匂い。老いの匂い。
いつまでも若く、チャカチャカしてると思っていたが、母ももう70代に手が届くような年齢だったのだ。お節に入れる酢の物が香ってるのかもしれないし、洗剤ですみずみまで掃除したからかもしれない。だが、今まで実家に、この匂いはなかった。

風通しのよい団地の3階。寒いのへっちゃらな母はそこを気に入っている。しかし、今年はやけにひえびえと人っけのない空気が部屋を満たしていて切なかった。

それを昨夜、風呂でぼうっとしている時にいきなり思い出したのだ。ついでにどんどんエスカレートし、母をおくる最期の朝のことまで想像してしまう。

「本日は、母のために足を運んでいただきまして、誠に・・・」

うっ、と声が出て我にかえる。いけない、こんな縁起でもない事考えたら、またおかあさんに怒られる。「人ぎぎ悪いわね、まだ人生楽しみたいのヨ!」とか。