マーマの心臓、ふたつ

週末、臨月の妹に会いに行った。「こんど会うときは出てきてるねぇ」とか言いながら、皮がパンパンに張り切ってピカピカ光沢を放つ腹を撫でる。拙も恐る恐る撫でてみる。


しばらくすると「びくっ」と腹が動き、続いて「にょ」となんか出っ張ってきた。「これは足だね」と妹。知識では知っているが、こりゃ神秘だ。さらに手を当て続けていると、「どくどくどくどく・・・」と、妹のものとは明らかに異質の鼓動が手の平に響いてくる。


「こんなんなってもまだ実感がないんだよねぇ、ここに違う生き物が入ってるってのが」


ぽんぽんペシペシと腹を叩きながら、緩慢な動きで茶を淹れてくれる。「なんか牛だね。スロー牛(もー)」とかババチックな冗談かます妹が、なんだか動物として正しい生き方してる先輩みたいに思えてうらやましくなった。チャンスの前髪を掴むために短い足を大車輪みたいにグルグルいわせて全力疾走する拙が空しく思えてならなかった。


台所に立ち、妹と一緒にチリビーンズを作った。妹のレシピ通りに作ったチリは相当辛かった。大丈夫なのかこんなの食べて、赤んぼがビックリしちゃうんじゃないのか、と聞いたら、たぶん大丈夫でしょう、とノンキ。ははノンキ。


それを分けてもらって、レタスとチーズとトマトを添え、今週初の弁当に。やっぱ辛い。でもおいしい。マーマの味。