冬来たりなば、別れよう

izumi_yu_ki2005-11-04

両天秤ではせいぜい小さなバウムクーヘンとレシートぐらいしか掴めやしないよグリップと一緒にそれら握り締めてテーブルに置き君の隣をキープしたら勇気を出して片方を手放しカウンターまでオーダーメイドのコーヒーを取りにゆこう。

スタバのアイスラテ(スモール)のまずにいられない。

本当は早く出て、出勤前に病院でリハビリ指導を受けるつもりだった。だが体がどうしても重くだるく、いつもより10分早い程度の出発になってしまった。病院へ寄るには遅すぎるし、会社にそのまま出勤しても、いつもと同じ計算に四捨五入されてしまう。

中途半端な時間を、駅前のスターバックスでつぶすことにした。ここ数日、屋内では松葉杖1本で歩く練習をしているので、そろそろセルフサービスも一人で大丈夫ではないかと踏んでドアを開ける。

入口には、今日入ったばかりらしいバイトの女の子がベテランらしき店員からレクチャーを受けている。その二人はテキストを手に、客に挨拶する余裕もなく打ち合わせをしている。その横をすり抜け、カウンターで注文。ついでに朝食も、と思ったが、結局レジ横の小さなバウムクーヘンにとどめた。

「奥のカウンターでお受け取りくださーい」といつものように言われ、えっと戸惑う。その時、拙はまだ両松葉杖で移動しているのだが、どの手で持てと?
研修中の店員は、相変わらず二人の世界に没頭中。まあまあ、しょうがない。いいや。いつまでも怪我人ヅラして補助を待っているのも無粋だし、とバウムクーヘンと片方の杖を窓際の席に置き、カウンターの前で待ってカップを受け取った。

外で片松葉になるのは初めて。たいへん怖かった。カッコ悪さを気にする余裕はなく、ひょこひょこと、ひどいビッコをひきながらもデリバリー成功。ほっとしつつ、久しぶりのラテをすする。

片松葉はけっこうむずかしかった。だいいち、右に持つのか左に持つのかもわからない。普通のT字杖なら反対側の手に持つのが普通だから、右に持つのが正解かもしれないが、どうも力が足りず歩けない。今のところ悪いほうに杖を持つほうが前に進みやすいので、そうしている。ただ、杖を前に出し損ねると、クルリと後ろに半回転しちゃったりして大層スリリング。やっぱダメだな、我流は。夕方に早退し、1週間ぶりに病院で指導を受けるつもりなので、その時正しい方法を教えてもらおう。

骨折してから45日経った。ケガ前の動きを思い出せないほどドップリと不自由生活に慣れてしまったが、いつまでも甘えているわけにもいかない。クッションがわりの脱脂綿を包帯とテープで巻きつけた松葉杖のハンドルは、連日のハードな使用に耐えた末、布がよれて黒ずんでいる。アルミの足は何百回と倒され傷だらけになっている。最初は鬱陶しく煩わしかった杖も、毎日一緒にいたことで愛着さえわいてきた。しかししょせんは借り物。一時的な蜜月はいつか終わる。さびしさは甘えの裏返しに過ぎないとわかっている。元の場所へ返した翌日からしばらくは、どうやって歩いたらいいかわからず途方に暮れるかもしれない。

かるく、失恋みたいな感覚。