一親等
父は、ほどなく死へ向かう床についている。肺が、酸素を取り込む呼吸器としてほとんど機能していないからだ。ただし悪い場所は肺だけ。明晰な意識をもったまま、空気中で父はいま溺れている。特効薬はない。楽にする方法はすなわち自発呼吸を忘れさせることになるリスクが高い。
つまり、もう、ただ苦しみ死ぬのを待つだけ、なのだ。
もともと家に寄り付かず理想と恋に走っていた父。とうに離縁しているのだが、拙は自分自身でもよくわからない感情から、父の戸籍にひとり残った。
本家の長男とその長女。そういう関係だが、今の時代戸籍なんてたいした意味はない。事実の積み重ねだけが真理、ということになっている。のだが、拙は父と「つながり」を保っていたいと思ってしまった。理性的には自分でもまったく理解しがたい。なのに、拙は母の籍より父を選んだ。
好きってわけではない。私論で母を貶める父の血縁に未練はない。なのに、なぜなんだろうね。
考えたくないことを、これからたくさん考えなければいけない。長女として。おそらく喪主として。きつい、ね。
しかし肉親のそれは、誰もが通る道。なにも拙だけが特別なわけではなく、むしろ負担は軽微だ。
頑張らなければ。まもらなければ。
父を、というよりも、苦労しか負わされなかった母を。