ちょっとセンチなフォークギター

拙がずっと大事にしてきた人は、今実家に帰省している。いずれ一度は帰ってくるだろうが、もう心はそのまま家には帰ってこないかも、とか思っていたりする。

見覚えのある冬物のコートは全部ハンガーにかかっている。拙の見知らぬ、買ったばかり新しいのコートで旅立ったのだろう。ネックが反ってしまい、張り替えたばかりの弦もあまりよく鳴らないフォークギターは、むきだしのままウクレレと何冊もの教則本とともにホコリをかぶりはじめている。

有給休暇をとっていたのは確か昨日までだったはずだが、きょうになってもまだ帰宅していない。そのまま会社に直行しているのかもしれないし、休暇を延長しているのかもしれない。今の仕事はつらいが楽しいと言っていたので、まだ辞めるつもりはないと思っていたが、今まで一度気が抜けるとそれまでの真面目さがウソのように勤労意欲を無くしていたことを考えるとまた悪い癖がでているのかもしれない。まあ、それはそれでいいのかもしれない。刺激のない郷里で小説を書ける創造力が、もう彼に備わっているのであれば。


ぜんぶ憶測なのは、あれ以来連絡がないからだ。
今までは寂しがったり怒ったりしたが、今回はもうなにもしない。
拙は彼に、とうとう届かなかったのかもしれない。