つま先みながらすごい勢いで歩く少女

すごい勢いでこちらに向かって歩いていた下北少女。かわいい服を着ているのに、なんだか妙な感じ。後姿を振り返ってみたら、彼女はずっと下を向いたまま歩いていたのだった。

鶴が長い首を曲げて足もとの餌をつまむように、彼女はガックリと首を折り、自分のつま先を見ながらすたすたすたすたと、まっすぐに歩いていった。他の通行者も彼女を丸くよけて(迷惑そうに)すれ違う。真下を向いたまま、やがて踏切の丘にさしかかっていった。

危ないぞ、ガール。このあたりは道幅が狭い上に、でっかいトラックがひっきりなしにグオングオン通る。“開かずの踏切”の遮断に引っかかるまいとして乗用車も自転車も人間も、びゅんびゅん通る。下を向いてりゃ、踏切のミゾや石ころにつまずくことは免れるだろう。ぶつかりそうになっても、人間だったら相手のほうがどいてくれるだろう。でも、前後左右からスピードあげて向かってくる乗り物は、自分でよけなきゃ。

下を向いていた理由はわからない。もしかして、目の中に涙がたっぷり溜まっていて、上を向いたら零れてしまう状況だったのかもしれない。外にいるのに、道を歩いているのに、自分のなかに閉じこもって歩く少女に、一瞬、むかしむかしの我儘な拙の少女時代がシンクロしたような気がした。