ドヤの隣町で暮した頃

何年も前、ドヤの隣に住んでいたことがあった。母や知人には大反対されたが、それなりに満喫した。

春一番が吹く頃になると、白っぽい埃とともに「むぁぁん」という恒例の饐えた匂いが道路を吹き抜ける。風上にはドヤ街があり、暖かくなってくると、それまで寒さで留まっていた体臭や生活腐臭やドブ川の匂いが蒸発してくるのだ。これを嗅ぐと「あ、確かに春が来たなー」と感じたものだった。

今年はものすごく寒い。ドヤも大層冷えていることだろう。町の広場は有志が時々焚き火をたき、日雇いの人やホームレスや近所の子供が、丸くひとつの輪になって体を温める。たしか時々は炊き出しが行われ、あったかい豚汁やおにぎりが配られていたんではなかったっけ。少し、なつかしい。が、マンションの玄関先に転がっていて動かなかったり、夏なんてすごく臭かったり、テント張られてしまうので近所の公園でデートもできないし、夜は面白がられて追っかけられたし。生活圏がカブっていると、いい思い出ばかりじゃいられないさ。

と、先週から何かと取り上げられていた大阪の青テント撤去のニュースを見ながら思う。