みぞれが降っている
昨日まで住んでいた家へ急いで行くと既に不動産業者が傘を差し体を揺らしながら待っていたのでスミマセンと言って鍵を開けカラッポになった部屋で敷金返却の書類にサインしてアリガトウゴザイマシタとにっこり笑って部屋を出てこれでもうココを駆け上がることも駆け下りることもなくなるんだナアと少し感傷的になりながら階段をおり玄関を開けて外に出る。
味噌汁飲まずにいられない。昼休みになった途端に会社を抜け出した。空腹で苛立った体に寒さがしみるから、なにか温かいものを。
いつものおにぎり屋で、豚汁と「季節のおむすび」一個。今日の具は菜の花のからし和え。外は指が凍るほど寒いのに、食材には春が芽吹いている。皮つきのごぼうがたくさん入った豚汁に七味唐辛子を振り入れ、ふうふういって啜りこむ。胃袋がぬくぬくして、体の苛立ちがゆるんでくる。
仮の宿のつもりだったのに、2年近くも住んでしまった。あそこに住んで痛感したことは、人間、衣食住が足りないと心がすさんでくる、ということだった。衣はともかく、「食」と「住」は大事だ。あまりにも寒すぎる部屋はストレスを溜めるし、食事を作らないキッチンは女性の品位をそこねる。とても勉強になった。
すさんだ心の立て直しは、思い立った時から始めるべし。まずは食。残業で帰りは遅いが、深夜営業のスーパーで野菜とベーコン。帰宅したらその足でキッチンに立ち、買いたての野菜を包丁でざくざく刻み、鍋に放り込んで火をつける。それから服を着替え、風呂に入ってさっぱりした頃には、いい具合のシンプルスープができるはず。それを一杯だけ飲んで、夜更かしせずに眠る。
新しい朝がにごらないよう、夜は楽しいことだけ考えて。